確認すると、それは先月別れた彼女からで、よく見るとメールも入っていた。
『 もう一度会って話がしたい 』
翌週、近所の喫茶店で彼女と会った。
予想通り『やり直したいの…』と言ってきたが、俺はそれを断った。
仮にやり直したとしても、また別れるのは目に見えている…またいつもの喧嘩を繰り返すだけだ。
未練がないと言えば嘘になるが、俺の決心は固かった。
彼女は涙ながらになんども復縁を迫ってきたが、俺は頑として断り続け、彼女を残したまま喫茶店を後にした。
…
それから二週間程が過ぎた頃、俺はいつものように深夜に帰宅し眠りについていた。
時間は解らない、玄関の方でガチャガチャという音がしたような気がしたが、寝ぼけていた俺はさほど気にせずにそのまま目を閉じていた。
すると、足元の方からとてつもなく激しい痛みが襲ってきた。
『 うわ痛っ!!!』
一瞬で覚醒した俺は足元を見た、すると暗闇の中で誰かが座っているのが見えた。
激しい激痛に絶えながら、恐る恐る手元にあるスタンドライトのスイッチを入れる…
すると、
抑揚の全くない顔をした彼女がカッターナイフを持って座っていた。
あまりもの有り得ない状況に全く声が出ない。
自分の足を見ると、親指の辺りからドクドクと血が流れているのが見えた。
「 …あっ… えっ!?…
…ウソ… 何!?… 」
これぐらいが精一杯だ。
すると彼女はブツブツと何かを呟き、カッターナイフを右手に持ちながら少しずつ俺の顔の方に近づいてきた。
「 や…やめ…!! 」
カチカチカチカチとカッターの刃を鳴らしながら、俺の耳元まで来てこう言った。
『 イ…タイノ〜…!?』
カチカチ…という音を聞きながら俺はそのまま意識を失った…
【おわり】
ガーー!!
エレベーターのドアが開く。
今日もしつこい客がいたせいで、帰宅は深夜三時を少し回っていた。
「 あ〜疲れた…」
誰もいないエレベーターの中で左肩を回しながら大欠伸をしていると、
『 …イタイ…ノ…!? 』
女とも子供ともつかない、聞きようによっては機械音のような声が背後から微かに聞こえる。
「 またか… 」
俺は別に驚きもしないし振り返りもしない。
どうせ振り返った所で誰もいないのは解っているし、ここ数週間毎日の事なので慣れてしまったと言ってもいいかもしれない…
『 イタイ…ノ〜!? …イタイノ〜!? イ…タイノ〜!?』
もしかしたら疲れているのかもしれない…
先月彼女と別れたばっかりで、最近仕事にしたってストレスが溜まる一方…
正直アップアップしているのは確かだ。
背後からの声を無視してエレベーターを降り、暫く歩いた所で後ろから『ガーン!!』という音がした。
ビックリして振り返ると、エレベーターのドアの下の方で挟まれている白い手首が見えた…
ダメだ完全に疲れてる…
俺は部屋に入るとすぐに熱いシャワーを浴びた。
そして寝る前に携帯をチェックすると、着信が三件あった。